湿度が高く気温差も激しい日本では、家の中の環境も季節によって変化します。
そこで注目したいのが「断熱材」です。断熱材には熱を維持するだけでなく、冷気を外へ排出しない・湿気を入り込ませない・撥水性が高いなど、さまざまな特徴があります。しかし種類が多いため、どれを選んだらよいか迷ってしまうのです。
そこで今回は、そんな断熱材の種類と選び方、メリットについてまとめてみました。使用を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
断熱材の種類とメリット・デメリット
断熱材は種類によって特徴が異なり、大別すると無機繊維系・木質繊維系・発泡プラスチック系の3つに分類されます。
それぞれきちんと理解しておくことで、安心して家を建てられるでしょう。
無機繊維系
無機繊維系は、繊維との間に空気層を作ることで熱伝導率を下げる働きがあります。繊維の密度によって断熱性能が異なりますが、低価格なので木造住宅によく使用されています。
なお、同じ繊維系でも、グラスウールとロックウールでは特徴が異なります。そのため、何を重視するかも加味して選ぶことが大切です。
グラスウールは価格が安く、手軽に使用しやすいのがメリットです。吸音性が高いので防音効果も期待でき、ガラス繊維なので火に強く害虫を寄せつけません。一方で、湿気に弱く、ほかの断熱性能に比べて効果は劣ります。
ロックウールは、グラスウールよりもさらに防音性にすぐれています。鉱物系繊維なので耐火性があり、害虫にも強いのがメリットです。断熱性能も高いでしょう。ただし、湿気には弱く、場合によっては隙間ができる可能性があります。
2つを比較してみると、グラスウール=断熱性能が低く、ロックウール=湿気で隙間ができる、というデメリットがあることがわかりました。
しかし、グラスウールにもグレードがあるため、すべて断熱性能が低いわけではありません。断熱性を重視するならほかの断熱材を検討するのもおすすめですが、繊維系を選ぶなら繊維密度が濃く、厚みのあるものを選ぶとよいでしょう。
また、ロックウールに関しても、湿気対策は必要です。グラスウールに比べて価格は少しだけ割高になりますが、断熱性にすぐれており、撥水効果も期待できます。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ロックウール | 価格が安い 吸音性が高く防音効果も高い 火に強い 害虫を寄せ付けない |
湿気に弱い 断熱性が劣る |
グラスウール | 害虫に強い 断熱性が高い |
湿気に弱い 隙間ができる |
木質繊維系
繊維系の断熱材には、セルロースファイバーやインシュレーションボードなどの「木質繊維系」も存在します。「自然系断熱材」とも呼ばれており、自然素材特有のメリットをもっているのが特徴です。もちろん、同じ木質繊維系でも2つを比較するとメリット・デメリット異なります。
セルロースファイバーは、新聞やダンボールなどの古紙を再利用したもので、環境にやさしく調湿性にすぐれているのが特徴です。また、綿状になっているため、わずかな隙間でも施工が実現します。高断熱性能が期待できるのもセルロースファイバーのメリットでしょう。
インシュレーションボードは、廃木材などを使用した植物繊維です。環境にやさしく吸音性にすぐれており、透湿性もあります。そのため、無機繊維系のように湿気がこもる心配がありません。軽量で加工しやすいのもメリットでしょう。ただし、価格は比較的高めです。さらにシロアリに弱い・耐火性が低いなどのデメリットもあるため、採用していない大手ハウスメーカーも多く存在します。
一般的に、木質繊維系で採用されているのはセルロースファイバーがほとんどです。人にも環境にもやさしいうえに、耐火性・防音性・防虫効果も高いので、最近は注目度も上がってきています。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
セルロースファイバー | 環境にやさしい 調湿性に優れている わずかな隙間でも施工可能 高断熱性能 |
ー |
インシュレーションボード | 環境にやさしい 吸音性に優れている 透湿性が高い 軽量で加工がしやすい |
価格が高い シロアリに弱い 耐火性が低い |
発泡プラスチック系
プラスチックの中に空気層を作り、熱をとおりにくくする断熱材です。なかには断熱性能の高いガスを閉じ込めたものもあり、ほかの断熱材と同様に、種類によって特徴が異なります。硬質ウレタンフォームやフェノールファームなどが一般的ですが、ぜんぶで5種類に分類されます。
まず、硬質ウレタンフォームは、内部の気泡はガスが入っており、空気層より熱伝導率がすぐれています。そのため、発泡プラスチック系の中では断熱性が高く、吹きつけ施工を行うことでより高い効果が期待できます。しかし、コストが高いため、手軽に採用できないのがデメリットです。また熱によって有毒ガスが発生する危険性もあります。
フェノールファームは、断熱性・防火性にすぐれており、熱による有毒ガスも発生されません。断熱性能に関しては長期的に効果が持続するため、比較的に安心して使用できます。一方で、性能が高いほど高額になり、水に弱いことで吸湿性が高いのがデメリットです。
ビーズ法ポリスチレンフォームは、発泡プラスチック系の中では価格が安く、水に強い・加工しやすいなどのメリットがあります。水を吸収しにくいので湿度が高い日本には非常に最適です。また、加工性が高いことから、さまざまな用途に使用できるのもポイントでしょう。ただし、断熱性にはすぐれておらず、防火性も期待できません。そのため、断熱性能を重視して選ぶならデメリットになります。価格も種類の中では割高でしょう。
押出法ポリスチレンフォームは、ビーズ法ポリスチレンフォームより低コストで湿気対策の適性があります。もちろん、加工性も高いので使用用途は多彩です。一方で、断熱性能に関してはやや劣ります。熱に弱く経年劣化しやすいのもデメリットでしょう。
高発泡ポリエチレンファームは、ほかの発泡ポリエチレンより柔軟性があるのがメリットです。加工性も高いので、スライスやカット、打ち抜きなどさまざまな用途に使用でき、耐水性も期待できます。しかし、火に弱いのは共通しています。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
硬質ウレタンフォーム | 断熱性が高い | コストが高い 有獄ガス発生の危険性もある |
フェノールファーム | 断熱性・防火性に優れいてる 湯毒ガスの発生がない 断熱性が長期的に継続 |
コストが高い 水に弱い |
ビーズ法ポリスチレンフォーム | 価格が安い 水に強い 加工しやすい 湿度に強い |
断熱性が低い 防火性が低い 他の種類と比較して割高 |
押出法ポリスチレンフォーム | 低コスト 湿気に強い 加工性が高い |
断熱性がやや劣る 経年変化しやすい |
高発泡ポリエチレンフォーム | 柔軟性がある 加工性が高い 耐水性が高い |
火に弱い |
「最高の断熱材」とは?
断熱材には、地域や生活スタイルによって良し悪しが大きく異なります。そのため「この種類が一番よい」と断定することはできません。あくまで紹介した種類を参考に、要望に合ったものを選ぶのがベストでしょう。
たとえば「安さ」で選ぶなら、無機繊維系がおすすめです。加工性も高いのでさまざまな用途で使用できますし、グラスウールならガラスでできているので燃えにくく害虫も寄せつけません。ただし、湿気に弱いため、雨がよく降る地域ではデメリットになります。
一方で、耐熱性より快適に過ごすことを重視するなら硬質ウレタンフォームやフェノールファームがよいでしょう。夏は涼しく冬は暖かいので、省エネ効果も期待できます。
しかし、一般の方が間取りや壁紙のように断熱材を選ぶケースはほとんどありません。すべてプロにお任せすることになるため、要望がある方はプランニングの際に「こういう断熱材を使用したい」旨を伝えておくと安心でしょう。「断熱材に強いメーカー」や「最適な断熱材を使うメーカー」などを探して依頼するのもおすすめです。
ちなみに、アメリカではセルロースファイバーが最高の断熱材といわれています。
断熱材を選ぶときのポイントと注意点
断熱材は種類によって性能やコストが違うため、何を基準に選んだらよいか迷ってしまいます。だからといって、安さだけで選んでしまうと失敗します。
ここでは、断熱材の選び方と注意点について解説します。
選ぶ基準
まず、選ぶ基準は主に2つ挙げられます。
まずは「コスト」です。断熱材を使用するには費用がかかるため、そのことも含めて検討しなければいけません。断熱材は品質が高いほどコストも上がりますが、施工費は加工性によって変わってきます。加工しにくいものと加工しやすいものでは、当然後者のほうが安くなります。
あくまで基準になりますが、無機繊維系は40万円が相場になるのに対し、押出法ポリスチレンフォームやビーズ法ポリスチレンフォームは80万円、セルロースファイバーになると160万円程度かかるといわれています。種類が違うだけでここまで価格差があるのです。コストを重視する場合は断然無機繊維系がお得でしょう。
次は「断熱性能」です。断熱材本来の効果を充分に発揮したい場合は、熱伝導率が低い発泡プラスチック系がおすすめです。しかし、このタイプは防火性・防音性が低いため、デメリットも考慮して選ばなければいけません。セルロースファイバーに関しては「断熱性<防火・防音・安全性」と付加価値が高くなり、断熱性を重視しない方には効果的です。
このように、どちらを優先するかで選ぶ断熱材は異なります。性能で選ぶ場合は、付加価値も含めて考えると選びやすくなるでしょう。
選ぶときに気をつけたいこと
断熱材は、種類別にメリット・デメリットがあるため、注意点をきちんと理解して選ぶ必要があります。
まず無機繊維系は、水や湿気を吸うことで断熱効果が低下します。そのため、使用する際は湿気対策が欠かせません。
木質繊維系は、沈下が起こりやすく、それにより隙間ができる場合があります。細かい部分にも吹きつけることで気密性は高まりますが、専用シートをしっかり貼りつけるのも効果的です。正しい施工を行えば、充分な断熱性能が期待できるでしょう。
発泡プラスチック系は、厚みが不均一になると湿気が入り込み、冬場は凍結の原因になる場合があります。また、施工技術によって正しく施工されないケースもあるため、きちんと確認しておくことが大切です。
断熱材は「使用すればOK!」ではありません。家の形状や土地によって最適な断熱材が違うので、それぞれのメリット・デメリットを充分理解したうえで選ぶようにしましょう。
施工事例
ここでは、断熱材を使用した施工事例を紹介します。
まずは、土間を活用したデザインです。部屋のポイントともなる大きな窓からは光が差し込み、部屋全体を心地よい空間にします。土間スペースではガーデニングもできるので、植物が好きな方に喜ばれるでしょう
次は、ナチュラルモダンなデザインです。ナチュラルウッド+白を基調とした空間は、清潔感があり癒しの空間を演出しています。アイランドキッチンにすることで家族とのコミュニケーションもとりやすく、天吹き抜けにした天井は開放感があります。
ほかにもいろんな施工事例がありますので、各ハウスメーカーでチェックしてみてください。
施工方法によって異なる性能
断熱材は、施工方法によっても性能が異なる場合があります。「断熱性が高いはずなのに、それほど効果を感じない」という方は、もしかしたら相性の悪い工法を採用しているのかもしれません。
ここでは、木造住宅で用いられている主な工法を紹介します。
充填断熱
充填断熱は、もっとも一般的な工法です。多くの木造住宅で採用されており、躯体内に断熱材を充填させることで高断熱性能が期待できます。
この工法のメリットは、どんな断熱材にも対応する点です。そのため、無機繊維系はもちろんのこと、木質繊維系や発泡プラスチック系でも性能の違いが生じることなく施工できます。コストがかかりにくいのもポイントでしょう。
ただし、木造工法の組み合わせによって煩雑になるため、選ぶハウスメーカーによっては性能の効果が発揮されません。充填断熱で施工する際は、かならず腕のいい職人がいるハウスメーカーに依頼するようにしましょう。
外張り断熱
外張り断熱は、柱の外側に断熱材を張りつけることで熱の出入りを軽減し、断熱効果を高める工法です。つなぎ目は気密テープを貼るだけでよいので、施工も簡単で手間がかかりません。外側からおおうため、加工しやすい発泡プラスチック系の断熱材との相性が高めですが、冬でも室内に冷気を入り込ませないため、暖房機器もすぐに暖かくなってくれます。
一方で、地震などの揺れによって断熱材が下がってくる点はデメリットです。対策をすることで軽減できますが、ほかの種類に比べると耐久性は低くなります。また、厚みが出るため、狭小住宅にも向いていません。
付加断熱
付加断熱は、充填+外張りの2つの施工を採用している工法です。高断熱性能の需要が高まったことで近年採用するハウスメーカーが増えてきていますが、完全に浸透しているわけではないため、まだまだ施工できる業者は多くありません。
しかし、木造住宅に採用すると高い断熱効果が期待できるため、冬は暖房なしでも快適に過ごすことができます。現段階では使用できる断熱材や外装材の種類は少ないものの、高断熱性能を重視するならおすすめの工法です。
効果は保温だけじゃない!
断熱材の効果は、熱を遮断し冷気の伝達を遅らせるだけではありません。空気や光熱費、耐久性などにもプラスに働いてくれます。
ここでは、それぞれの効果について紹介します。
空気がきれいになる
断熱材と聞いて、空気がきれいになると考える方は少ないでしょう。断熱材を使用すると、熱と冷気の伝達を遅らせることができるので、夏は涼しく冬は暖かく過ごせるようになります。
また、素材によって調湿・防音・耐火などの付加価値もあるため、断熱材を使用していない家に比べて快適性が高まります。とくに湿度の高い日本では、湿気の少ない室内は心地よく快適です。
さらに、現在の新築住宅は、建築基準法によって「24時間換気システム」の導入が義務づけられています。断熱材×24時間換気システムを併用すれば、部屋中を計画的に換気できるのです。効率よく空気を入れ替え、いつも新鮮な空気で満たすことができます。
このほかにも、シックハウス症候群の防止や汚れた空気を排出する役割もあります。
光熱費が節約できる
冷暖房機器の使用頻度が下がるので、光熱費の節約にもつながります。近年、電気代の高騰によってできるだけエアコンや扇風機を使わないように努めている方もいるでしょう。
しかし、昨今の夏の気温上昇では、エアコンを使わない生活はむずかしく、使わないことで熱中症や脱水症状を引き起こす危険性もあります。熱材を使用した家なら熱や冷気の伝達が遅いので、夏はエアコンを点けなくても涼しく、冬は暖めた部屋を長時間保つことができます。
結果、光熱費が節約できるようになり、使用頻度が下がることで冷暖房機器も長持ちしやすくなるでしょう。
家が長持ちする
寿命が延びるといえば、家も含まれます。日本の家は平均寿命がそれほど高くなく、アメリカやイギリスに比べると20年以上の差があります。
なぜ日本の家は寿命が短いのかというと、壁の中の結露が大きく関係しています。結露は寒暖差や湿気によって発生しやすく、ほかの国に比べて高湿度+家の断熱性が低い日本では、どうしても結露が発生しやすくなってしまいます。
結露には「表面結露」と「内部結露」にわけられますが、後者は壁の内側に入り込んで発生するため、気づかないままどんどん深刻化します。場合によっては腐食の原因にもなるため、断熱材や防湿気密フィルムを使って対策をする必要があります。
このように、断熱材を採用することで結露の発生を防ぎ、防湿性も高めてくれます。そして、家の劣化も防げるでしょう。
健康が守られる
とくにお年寄りがいる家では、冬になると寒暖差によるヒートショックの発生リスクが懸念されます。ヒートショックには脳梗塞や心筋梗塞などの疾患も引き起こす可能性もあるため、断熱材を使用していない家での生活は非常に危険です。
しかし、断熱化された家なら快適な温度を維持できるので、寒暖差が少なくヒートショックの発生率を軽減できます。持病のある高齢者がいる家は、ぜひともリフォームやリノベーションで断熱材の使用をおすすめします。
まとめ
断熱材にはいろんな種類が存在するため、選び方やメリット、さらには施工方法によって断熱性能の効果が異なることがわかりました。
「部屋を暖める」イメージが強い断熱材ですが、実際は防音性・耐火性・調湿性などの付加価値もあり、光熱費の節約や冷暖房機器を長持ちさせる効果も期待できます。また、採用する種類によってコストも大きく変わってくるでしょう。
日本の木造住宅では無機繊維系のグラスウールが一般的ですが、断熱材それぞれにメリット・デメリットがあり、地域や土地によって相性も異なります。新築やリフォーム・リノベーションを検討している方は、価格だけで判断するのではなく、性能・付加価値・熱伝導率・加工性なども考慮して選ぶようにしましょう。